第6章 昏い楽園/尾浜
はこの声は裏返るが、しかしかすかにことばが聞き取れる。―――――学園へ帰る途中、兵助から、おれの気持を聞き出した。おれからも、「あいつら」とおなじ目で見られていたんだとおもうと、堪えられなかったのに、いま、無事帰還したおれのすがたを見た途端、心底安堵した。
「あいつら」とはなんなのかわからないが、そんなことをいっていたようだった。
「オレのことを殴れなくても、おまえは仲間だ」
はこは立ち上り、おれに手を貸していう。
「だから、オレは学園やめるよ」
医務室で八左ヱ門が、兵助は丑の刻ごろにすでに助かって、部屋に寝かされているといっており、おれは暗い部屋の障子を明けた。かすかにこんもりした布団が見えて、おれはそこに駆け寄る。
「へーすけえええ」
「勘ちゃん…」
布団に膝を詰めて、おもわず泣きべそをかく。こちらに向けた兵助の目からも、はらりと涙が落ちた。
「うわあああ殴ったりしてわるかったああ」
「勘ちゃん…」
「実習控えて緊張してたうえに、おまえにあんなこといわれて…おれつい」
「いいんだ…おれ、ひどいこといった。はこにも呆れられちゃってさ、裏山においてけぼりにされたんだ」
「それでひとりでもどってきたのかよ!」
「両足ケガしたから、七松先輩が助けに来てくれるまで動けなかった…」
「ぶはっ」
おれはおもわず吹き出す。「はこのヤツひっでーことするな!」
「こころ細くて死ぬかとおもった…」
「さっきさ」おれは頭を掻く。「おれ、はこにフラれてきたよ。おまえは仲間だ、って」
そして、はこが学園をやめるといいだしたことも伝えた。「仲間だから、っていってた」
「おなごのはこがいても、おれたちの友情を荒らしてしまうだけだ、だけど、おれたちと会えてよかった………とか、そんなこといって……」
「………かわいそうだ」
だれにたいしてなのか、目を閉じた兵助は、静かにつぶやく。
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4話と予告していましたがけっきょくもう一話やります!