第6章 昏い楽園/尾浜
夜半、おれと雷蔵が持ち帰った密書は、木下先生が用意した文面とまったく異なっていた。
具体的な城のなまえはないが、じっさいに機能する暗号文らしい。
先生方と六年生の数人がすぐに、どんな城や忍者が関わっているのか調査に出るとともに、残りが五年生の保護に足った。実習中の者はどうやら、暗号文を解読されてはまずい立場の組織から攻撃を受けている。
そしていま、潮江先輩と中在家先輩に連れられて、八左ヱ門と三郎が帰還した。
おれは医務室から出て、パタリと障子を合わせる。足音が近づいてきて、振り向くと、はこの黄金色の髪が、障子から漏れる灯りに透けていた。
月の色に似て、すこし冷ややかだ。
「はこ!無事だったんだな」
「勘右ヱ門」
肩衣すがたのはこはこちらの顔を見るなり、珍しく目に涙を溜めた。安堵の息を吐き、おれの額を小突く。
「!」
おれがうしろによろけると鋭く苦無を向けるので、とっさにこちらも苦無を出して受け止めれば、そのまま攻防戦となる。
「はこ?! おい!おれなんかしたか?!」
廊下から地面に降りて手裏剣の応酬をやるが、けっきょく掴み合いになった。
「なんなんだよおお!」
地面に転がったおれに覆い被さったはこの、胸の晒しが緩んでいて、おもわず動きが止まる。そういえば、こいつはいつも厚着して、肌を許さなかったのに。
はこの胸ぐらを掴んでいたが、止まってしまったおれの手を取って、鼻を赤くした彼女は問いかけた。
「殴らないのか」
こちらの顔も赤くなるのがわかり、喉の奥が鳴る。みるみる涙が零れてくるのは、おれがはこの代わりに泣いているようだと、理由もなくおもえた。
「殴れるわけないだろ」はこが取ったおれの手が彼女の頬に擦り付けられる。優しい顔つき、きめ細かな肌、美しい髪。「はこは、おなごじゃないか……」
はこのからだが崩れかかり、おれは、とうとうしゃくりあげながら、その頭を抱きしめた。