第5章 これ以上、望めない/竹谷
「おれのこと、苦手だと…」
はっちゃんはまた、すなおな目をおれに向ける。
「い、いつからだよ!どのへんが苦手なんだ?!」
「落ち着けバカ!」
「なんでもいってみろよ、怒んないから!」
「直してほしいとこなんかねえよ!おまえがきらいなわけじゃない!…触られるとなんか、気まずいんだよ」
「……なんだそれ…きもちわるい」
「おまえなんでもいってみろっつっただろ!!殺す!」
「ところで触られたくないって、治療されたくないってことだろ」
「…」
「つまりけがしてるんじゃねーか」
ぽんと肩を押され、飼い葉の山に背をあずける。
「や、やめろよ」というも、腰紐を解くはっちゃんの手に、もはや抵抗することはない。小袖と肩衣のまえを開かれ、患部近くに手がかすめると、おもわずすこしからだが跳ねた。
「傷には触ってないぜ?」
「…」
携帯していた膏薬と包帯で処置を終えると、はっちゃんは心配そうにおれの額を撫でた。
「顔色わるい」
おれは触られるのがいやで、医務室になかなか行かない。それでも、はっちゃんならばいやではないことに以前から気づいていたからこそ、こいつに肌をさらすなど、ごめんだった。
そして、おれを惨めな嫉妬が襲う。
「……こんなことになるなら、告白しとくんだった」
はっちゃんが古い手裏剣を取り出したのだ。稚拙な字で「はこ」と刻んである。
恋敵を助けたりしてはっちゃんはアホだ。しかし、アホはおれのことでもあるだろう。
馬のいばりの音が聞こえだすと、おれはせせら笑った。
☆
はっちゃんとよんでるのに口に出すとき「竹谷」になってるのは、なんとか距離を保とうとするツンデレです
ラスト一話でおわるのか…?