第5章 これ以上、望めない/竹谷
民家の馬小屋に逃げ込み、おれとはっちゃんは地面に腰を落とした。
「あ~~」魂が抜けるかという声をあげてはっちゃんは大の字になる。「助っ人気取って出てっちゃったけど、もう走れねーよ」
「おれたちが出ていかなきゃ、兵助が狙い撃ちにされるところだったからな」
あいつら、無事に逃げ切っただろうかとは、どちらも口に出さない。べつにおれたちは、あいつらの恩人ぶりたかったわけじゃあないんだ、妙な闘志が昂っていただけといったほうがいい状態だった。
「えへへ…おれの微塵、見事だっただろ」
恩人ぶるどころか、はっちゃんは寝転がったまま、右手を振りかぶるまねをして、武器のおさらいなどはじめた。
敵の背後に飛び出すとともに投げられた微塵は、はこに龕灯を向けていた忍者のひとりへ、まっしぐらに飛んでいった。
微塵が脚に絡みつき、転倒した忍者に、今度はおれが躍りかかる。気絶するほどキツい峰打ちを食らわせ、反す刀で火縄を担いだ忍者の手首を打つ。さらに、隠し持っていたもうひとつの微塵で、はっちゃんはそいつの頭部をぶん殴った。
一瞬の不意打ちだった。
残ったひとりはしぶとくて、おれたちは学園とは別方向の山間の集落に追いやられてしまったのだ。ひとりがおれたちを追っているのか、増援が入ったのか、わからない。しかし、足止めには十分だっただろう。