第4章 黎黒/久々知
きょう、おれたち五年生はどのクラスも、実習を控え緊張していた。この本格的な機会を逃すような者はひとりもいないが、本音では恐ろしがっていることが、痛いほど伝わってくる。その張りつめた空気のなかで、おれははこをおもうのだった。
あいつはおそらく六年生に進級する気があるのだろう。高学年には本気でプロを目指す者がおおく、ほとんどが六年生を目指す。
毎年六年生たちは、先生がたから授業外で直接、なんらかの忍務を任されることもあるほど優秀だ。ちいさな城の、雑兵の寄せ集めの忍者集団などより、学生である六年生のほうがむしろプロに近いだろう。そうならなければ、卒業の資格などないのだ。
はこもまた、この実習を成功させ、うんと成長する気でいるはずだ。そのさきには、毎日危険にさらされる生活が待っている。
はこに伝えたい、後悔したくないとおもうより一瞬早く、おれは勘ちゃんのことをおもいだしていた。
夜闇のなか、おれははこの背で、彼女の足取りに揺られている。
はこの髪が額に当たる。肩は華奢で、羽交いに包めば猫のそれのようにくにゃりと歪む。倦怠するおれのからだを労るように、彼女は柔らかく優しいのだった。おれはつくづくおもいしる―――――こいつはおなごなんだ。
「らしくない判断だったな、兵助」
「…」
山中を逃亡していたふたりが敵の龕灯に照らし出され、銃声が聞こえたとき、おれはとっさにはこを庇っていた。
「火縄を夜に使おうと判断してる時点で、たかがしれた忍者たちだ。それをヘタに避けて、逆に命中しちまったみてーだったな」
おれは左足を撃ち抜かれ、そのうえ坂から転げ落ちてぶざまに捻挫したのだった。
しかし、そのとき敵の背後から鉢屋とはっちゃんが現れて、おれは、坂に滑り降りてきたはこに、無言のまま背負われて逃走した。
「長屋にもどったら、勘右ヱ門に世話してもらったらいいさ」
「…勘ちゃんとは、ケンカしたんだ」
気まずくて、おれはつぶやくようにいった。