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晴のち雨のちキス【実l況l者/短編集】

第20章 臆病な君と恋がしたい/uszw


現れたのは、たった今思い考えていた人物

私の方へと近付いてくるその姿は、紛れもなく『先輩』で

何よりあの頃と同じように「つばさ」と名前で呼んでくれた

嬉しい
けど恥ずかしい
けど怖い
…もう、頭グルグルする…?!

百面相をする私を不思議そうに見つめる牛沢主任

「…本物?」

「は?」

「あ、いえ!何でもないです!
お疲れ様です!
えっと…牛沢主任も探し物ですか?」

「あーいや、返しに来ただけ」

右手に持っていたファイルを顔の高さまで上げ、ヒラヒラと振ってみせる

「そ、ですよね…
幻覚なわけないですもんね…」

「え?
…つばさ、なんか今日変だな」

ははっと笑う牛沢主任

そりゃそうですよ
まさかのご本人登場ですからね
挙動がおかしくもなりますよ

なんて反論は脳内に留めて、笑って誤魔化す

「そういや久しぶりだよな。
半年ぶりくらいか?」

「ですねー、牛沢主任もお変わりなく」

「ふ、その呼び方…すごい違和感」

「え?」

「前みたいに呼んでよ?」

「え、えーっと……牛、先輩…?」

そう呼ぶと少し照れ臭そうに笑ってみせる
私の大好きな顔

…そんな風にまた笑ってくれるの…?

抑えつけていた想いが燃え上がる

でも高鳴る胸は次第に痛みに変わって、臆病者が顔を出す

牛先輩のこと考えちゃいけないのに
困らせてはいけないのに

今更、好きになりましたなんて…

グッと下唇を噛んで思考を逸らそうとしても、痛いだけで何も変わらない


そんなこと知る由もない先輩は、手に持ったファイルを棚に戻すと、私の背後にある段ボールの視線を送る

「で、つばさ、まさかとは思うけど」

「え、あー…そうなんですよね。
これ重くて大変で…」

と、言葉にして気付く

これだと手伝いを催促してるみたい…
顔見知りとは言え他部署だし、たまたま会っただけの牛先輩には頼めない!

「あの!お忙しいでしょうから戻ってくださいね!こんなのパパーってやればすぐですから!」

「………」

あれ…なんかマズイこと言ったかな…?

返事がない不安でドキドキしてくる

表情を確認したくて恐る恐る覗き込むように見上げると、目の端の手が伸びてくるのが映った


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