第1章 明日に向かって N×S
「だけど、誰もこれを着てくれないんですよぉ」
翔ちゃんは不満そうに言った。
「そうなの?」
意外だな…翔ちゃんが声を掛ければ、争奪戦でも起こりそうなのに。
…違うか。抜け駆けしないよう牽制しあってるのかもしれないな。
戻ってきた翔ちゃんが、僕のほうに体を向けてソファーに座った。
翔ちゃんの膝が僕の膝にあたっていて、その部分がじわじわと熱くなる。
「だから、カズさんが着てくれて嬉しかったなぁ…この服も日の目を見ることができたし」
髭のおじさんの格好をしていても、翔ちゃんはすごく綺麗なんだ。
「そ、そう?それは良かった」
僕の胸が煩いくらいにドキドキする。
「カズさんのこと、最初は不審者かと思って…」
「“おいお前”“そこの黄色”とかさ…後ろから低い声がして怖いなって…クククッ」
今では笑い話になるけどね。
「ごめんなさい…こんなに親切でいい人だったのに」
「いや、そんなことは…って…えっ?」
翔ちゃんが僕の手を取り、触れている膝の上でニギニギする。
「翔ちゃん?」
「あの時から、俺はカズさんに惹かれてる」
事件です…
髭の兄弟
緑の弟が赤の兄の手を握りながら、告白をし始めました…
僕の頭の中と胸はパニックになり、暫く固まってしまったんだ。
これは現実なのですか…?