第8章 素晴らしき世界 M×N
「来週はテスト期間だから部活は無し。みんなテスト頑張れよ〜」
部活の終わりに、顧問からそう話があった。
そうだった。
忘れてたよ、部活が無いこと。
部活が無かったら、土手にいるあの人の姿を見ることができないじゃないか。
それがなんだかさみしく思った。
翌週になって。
俺はテスト期間中の下校時は、学校から1駅分歩くことにした。
あの人がいるかもしれないってのもあるけど、土手から見える景色も好きだからだ。
いつもより早い下校時間。
あの人、いるかな…。
そんなことを思いながら正門を出て、土手のほうに向かった。
あ、いた…いたよ。
俺はドキドキしながらカバンの中に入れていたゴムボールを取り出した。
そのゴムボールをあの人のほうに向かって転がしてみる。
行け、行け、行け!
ちょっ、違うって。
そっちじゃないって。
俺、不器用だったっけ…?
進行方向から逸れたボールを拾い、再び転がすこと…数回。
ボールを拾う俺の後ろから、笑い声がした。
振り向くと、座りながらお腹を抱えて笑っているあの人。
そうか、今の失態を見られてたのか。
まいったな…。
恥ずかしくなって頭を掻いていると、あの人と目があった。
「くくくっ…アンタさ、面白いね」
初めて聞いたその人の声は、高くて力強くて。
俺の胸にストレートに入ってきたんだ。