第1章 明日に向かって N×S
同じアパートに住んでいるといはいえ、顔を合わすタイミングはしょっちゅうあるものではない。
当たり前のことを今更ながら感じる今日この頃なんだ。
“今度ゲーム教えてください”
櫻井さんの言葉が頭をよぎる。
まぁ、ゲームには賞味期限はありませんから。
「気長に待ちましょうかね」
仕事帰りに郵便物を取りながら独り言を呟いた。
「二宮さん…?」
横から聞き覚えのある声がした。
顔を向けると、櫻井さんがいた。
あらっ、会えたよ…。
「こんばんは、お久しぶりです」
「こんばんは。5日振り…かな?」
いざ出くわすと、緊張してくる。
今日も美人さんだなぁ。
「もしかして…二宮さんって…年上?」
櫻井さんが躊躇いがちに聞いてきた。
「25だよ。何で?」
「スーツにビジネスバッグ持ってるから…」
「櫻井さんって、持ち物から推測するの得意だよね」
「そんな、そんな。櫻井さんなんて呼ぶのやめてください」
「へ?」
「俺、二十歳の大学2年生なんです」
「は、二十歳?」
ほぇ〜っ、同じくらいかと思ってたよ…。
「はい。だから…翔ちゃんって呼んでください」
「翔…ちゃん…?」
「はい、櫻井翔だから翔ちゃんで」
「うん、わかった。じゃあ…翔ちゃんは僕をカズって呼んでいいよ。二宮和也だからカズで」
「えぇっ、呼び捨てはちょっと…。カズさんでもいいですか?」
「うん、いいよ。翔ちゃん」
「ありがとうございます。カズさん」
出会ってから5日後、僕たちはあだ名が決まったんだ。
なんか、楽しいぞ。