第1章 明日に向かって N×S
「お前さ、何してんの?そこウチのポストなんだけど」
「あっいやぁ、あなたが401の櫻井さんでしたかぁ」
「はぁ?」
「わたくし201の二宮のポストに間違えて入ってたんですよね、この郵便物が。だから入れ直してあげようと思ってたんです」
その男…櫻井さんが僕とそれを何度も交互に見ている。
「な、何ですか?」
「二宮さん…でしたっけ…」
「はい…」
急に声のトーンが柔らかくなって、びっくりした。
「わざわざありがとう。あなたはいい人だ」
「は、はぁ…あの、これ…」
僕は櫻井さんに郵便物を渡し、その場を去ろうとした。
「あっ。二宮さん、ゲーム好きなんですか?」
「えっ?あ、はい…って何で?」
「ポストのとこにまでゲーム持って来てるから」
たしかに、左手にはゲーム機を持っている。
何よりも大切な物。
「櫻井さんだってスマホを手にしてるでしょ。それと一緒です」
「あはは、言われてみればそうかも。」
口を大きく開けて笑うんだ。
その笑い顔が可愛くて、キュン…とした。
「今度ゲーム教えてください」
そう言いながら櫻井さんは颯爽と階段を駆け上がっていった。
僕は不思議な感情にとらわれて、暫くその場から動けなかった。
「…ってかさ、口調変わりすぎじゃね?」
クククッ…
いつもと違う日常にワクワクしている自分がいた。