第5章 STAY GOLD M×S
1年A組の教室に足を踏み入れる。
そうだった、『櫻井翔』とは同じクラスなんだった。
周りを見回し、キミの席を見つけた。
まだ来てないのか…。
俺は廊下側の一番前の席。
できれば後ろのほうが良かったなぁ。
そういえば、唇の人の胸にも花がついてたな…。
そんなことを思いながら、黒板に書いてある入学式の式次第を眺めた。
何人かが目の前を通りすぎたけど、誰かが教室に足を踏み入れた時、一瞬だけ空気が変わった気がした。
あっ…唇の人だ…。
その人の姿を目で追っていく。
センターよりも窓側寄りなのか…。
唇の人は途中で呼び止められて、言葉を交わし始めた。
早く、その人の席と名前が知りたいのに。
ちょっとだけイラッとしていると、
「A組のみんな、おはよう」
担任が入ってきて、仕方なく前を向いた。
体育館で行われる入学式。
今までの俺なら、絶対退屈してたと思う。
だけど俺の2列前の席に、唇の人がいる。
斜めから見放題の、絶好のポジションじゃん。
俺はずっとその人のことを見つめていた。
式が進んでいく。
「新入生挨拶。新入生代表、櫻井翔」
「はい」
えっ。
『櫻井翔』が新入生代表?
返事はどこから聞こえた?
キョロキョロしていると
「新入生一同、起立」
そう声がかかった。
壇上には『櫻井翔』がいるはずなのに、人の頭で見えない。
くそっ。
イライラし始めた時、新入生代表『櫻井翔』の声が聞こえてきた。
少し掠れがかっている低音。
…ん?
どこかで聞いたことがあるような気がする。
いつ、どこで…?
思い出せ、思い出せ…。
俺は記憶を遡った。
“大丈夫?”
あっ…
あの時、俺のことを心配してくれた声だ。
唇の人の。
あの人が…『櫻井翔』。