第3章 アオゾラペダル N×O
走る距離は100メートル。
カーブもあるけど、練習ではコーナー回りも上手くいっていた。
大丈夫、大丈夫…
胸に手をあて、心の中で自分にそう言い聞かせた。
「二ノ、緊張してるの?」
右隣から舌ったらずな声がする。
この人、何気に勘が鋭いんだよな。
「そりゃあね?クラスの代表ですから」
「おいらもクラスの代表だから全力を尽くす」
「おっ。力をあわせてゴールしましょうね」
「おう」
靴下も履き替えた。
紐の結び具合いもOK。
気持ちもひとつに肩を組み合った。
スターターが、台に上がる。
ドキドキドキドキと鼓動が高鳴る。
俺の肩にある大野さんの手に力が入った。
大野さんの肩を掴む俺の手にも力を込めた。
「用意!スタート!」
その声とともに、俺たちは1歩を踏み出した。
1、2、1、2、1、2、1、2…
皆、練習よりも気合いが入っている。
もちろん俺たちもだ。
小柄な俺たちは圧力に押されそうになるけど、リズムを崩さないように必死だった。
掛け声とともに大野さんの息づかいがする。
1つのことを一緒に頑張ってることが嬉しくてたまらない。
視界にゴールテープが入ってきた。
隣のコースとの接戦になっている。
俺たちは小柄だから、隣の長身チームと同じリズムでは、歩幅の差で不利だ。
そんなことが頭をよぎる。
「二ノ、スピードアップできる?」
大野さんの声がした。
「OKですよ」
「じゃあ、いくよ。1、2、1、2、1、2、1、2…」
「1、2、1、2、1、2、1、2…」
バランスを崩すことなくスピードアップできて、自分でもびっくりしてるし、すごく楽しい。
もう、隣のコースのことは頭になく、ゴールまで必死にリズムを刻んだ。
ゴールの向こう。
櫻井先生が満面の笑みで手を大きく振っている。
俺たちはそこに飛び込むようにして、ゴールテープを切ったんだ。