第3章 アオゾラペダル N×O
「あ〜疲れた〜」
「おいら、もう動けない」
結んでいた紐を解き、応援席に向かう。
足を伸ばしたくて、椅子ではなく隅のスペースに座り込んだ。
「でも…楽しかったなぁ」
「ニノ、必死だったもんね」
「大野さんもでしょ」
「うん、ふふふ」
まだ競技は続いているのに、俺にはいま、大野さんしか見えていない。
「ねぇ、大野さん」
「ん?」
首を傾げて俺を見る大野さんを直視できなくて…
俺はズボンの裾から見えている、大野さんがくれた靴下を撫でた。
「これからもずっと…俺と一緒にいてくれませんか?」
「…ニノと?ずっと…?」
「はい…」
「うーん…」
大野さんも俺と同じように、靴下を撫で始めた。
「ずっとっていうのは…まだわからない」
「だめってこと…?」
「先のことは約束できない。だけど、1日1日を大切にしていきたい」
「そこには、俺が一緒にいてもいいんですか?」
「うん、ダメじゃない」
「ふふっ、二人三脚で頑張っていきましょうか」
「んふふ」
一緒にいてもダメじゃない…今はその言葉だけですごく嬉しいんだ。
「お前たち、良く頑張ったな〜」
後ろから声がして振り向くと、櫻井先生がいた。
「当たり前でしょ、勝つために選ばれた二人ですから」
「…櫻井先生は、紐みたいだね」
大野さんがそう呟いた。
「紐?」
「俺が紐?」
「うん。おいらたちを繋いでくれた大事な紐」
「紐って…」
「紐って言い方がなぁ…」
「じゃあ…大切な人?」
もう…言葉のチョイスがなぁ。
そんな風に言われたら、相手を勘違いさせちゃうやつじゃん。
俺と櫻井先生は顔を見合わせた。
「二宮…。大野さ、今の無自覚だろ…?これからが大変だな」
櫻井先生が苦笑いした。
「はい…頑張ります」
「ほら、ニノ。リレーが始まる。応援しよ」
ニコニコとする大野さん。
大好きですよ、あなたが。
あの頃より、成長した俺たち。
明日も明後日も…あなたの隣にいられますように。
リレーが始まり、俺たちは精一杯声援を送った。
肩ではなく腰に手を回しあって。
END