rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第34章 wrong step on the stairs8
大柄な背番号8、センターの男がコートのなかを駆け回っていなくても、特別、チームに支障が出ることはなかった。
ただ、今日の対戦相手は実に遊び甲斐のあるそれだと本人が豪語していただけに、シルバーが不在という事実はなかなかどうして連中を困惑させた。
「ハァ~ア。めんどくせえな……どうせ女だろ?あのバカ連絡の一本くらい寄越せよ…ハーーー」
いつの日か引っ掛けた女をそのまま気に入っているとか、いないとか……そんな話はチームの中にもとうに浸透していた。
まあある日追求したとき、人相をより悪くして、不機嫌めいて返答したシルバーを目の当たりにすれば、その噂も概ね真実だということは理解に容易かった。
だから多分、彼が楽しみにしていたゲームを放棄する理由も絞られていたのだ。
「なんか聞いてねえのかよ」
「……ハッ…だから?女じゃねえのか……?おもしれえよな……、傑作が過ぎるぜ」
緩くなっていたバッシュの紐の結び目が視界に入り、それを直しながら問われたナッシュが、嘲笑まじりに返事を零す。
歪み上がった口角が示す企みのような笑みは、彼本来のものといえばそれまでだ。
が、それ以上の気持ちのこもった笑みと形容しようものなら、それほど恐ろしいと感じる表情もそうそうなかった。
「あいつが居ねえ分、骨が折れるよな……めんどくせえ。……まあ借りはきっちり、あとで返してもらうけどな――」