rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第36章 the beginning of hell
どの口が言ったものか……。
名無しが聞きたくなかったそれは、自分たちの本来の関係性だ。
元はもっと劣悪な関係だった。
身体だけのそれ、脅されていた過去……。
ただ、今はもう違うと言い貫くシルバーに、どうすればそれが真実だと追求することができただろう。
自信もどこから沸いて出るのか分からなかったけれど、それでもふと、そのときシルバーに手招きされたことを、名無しは決して不快に思っていなかった。
だから多分、それがこたえだとも思った。
「っ……」
彼がふいに口漏らした、自分が呼び出された本当の理由を話す、照れくさそうな表情に抱くのは淡い恋に似た気持ち。
名無しの肩の力がスッとなくなったのは、そんなささやかなシルバーの気遣いが知れたからだった。
試しに返答した内容で気分と顔色が豹変し、もしもその瞬間に押し倒されでもすれば、或いはまだ突き放せたかもしれないというのに……。
大きな手に同じ部位を乗せ、強引に引っ張られる。
たとえバランスを崩しても、やはり名無しには、それすら心地よかった。
「はは……ッ…。分かってるよ……ほら来い。名無し……」
「ッ……」
シルバーは名無しのホラー嫌いをちゃんと覚えていたし、彼女の零すジョークに便乗し、その場で歯を見せて笑いもした。
心の隙間にどんどん入られる。
彼のことで胸がいっぱいになる。
いつぞやとはまるで違う……。
ソファに座らされて肩を抱かれれば、願ってもみなかった今はさながら、何気ない男女の過ごす週末の風景そのものだった。