rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第33章 wrong step on the stairs7
今までいくつもの夜をシルバーと重ねて来た。
その殆どが強制的なものだった。
最初に思ったのは、自ら腕を回す日など、決して訪れる筈もないということ。
まんまと自分でその型を破り、崩し、好き好んでという意味合いすら今では含まれているのだから全く笑えた。
それに出会った頃のシルバーなら、すぐにでも名無しを自身の背より剥ぎ、正面を向かせていたことだろう。
いまは無理やり引き離されず、名無しは自分の両手に、シルバーのそれが触れたのを見えないながらも感じていた。
「……」
「ハァ……あのなぁ……、女癖が悪けりゃ想定できることだろうが…いちいち気にすんな。――…ま、ヤラれちまってたら話は別だけどな。ハハッ」
「っ……」
「おまえはちゃーんとオレ様んとこに来たんだ……褒めてやりてえくらいだぜ……」
「……私は…、その……わ…!」
「ほらよ……顔見せろ…名無し」
胸がズキズキと痛みだす。
今この瞬間こそ、顔を見られていなくてよかったと名無しは思った。
冗談で零された一節が実は冗談ではありませんでした、なんて知られる日が来ようものなら、恐ろしくて仕方がなかったからだ。
シルバーの中では、自分が浴室に向かったあとにナッシュが名無しを押し倒し、軽く冷かすであろうことはやはり想定内だったようである。
手癖の悪い、けれど誰の女か弁えているからこそ一線は越えないであろうと、それゆえきっと彼を信用してベッドの傍に二人を残していた。
結果的にナッシュは既に別の場面でシルバーを裏切っていることになるのだけれど、それをシルバーはまだ知らないし、知りうる兆しも今はまだ見えはしない。
名無しが、抱えているものの重さに耐えている限り……。