rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第32章 wrong step on the stairs6
―――。
――。
「…………!!」
「――……で、また二人きりになったな、名無し」
「っ……何が…」
「大声出すんじゃねえよ……シルバーに聞こえるぜ」
「…ッ……」
シルバーは自身も飲んでいたコーヒーのカップを屑籠に投げ捨てると、そのまま浴室へと入っていった。
ナッシュとの約束は、この日もまだ試合があったゆえの待ち合わせ場所と、それにあわせた時間の確認のようだった。
一緒に居られる時間に限りが見えてくるとなんだか寂しい気持ちになる……なんて冗談じゃない。
が、少なからずシルバーは寂しく思っていたようで本音を漏らし、僅かな時間を一緒に過ごそうと名無しを誘っていた。
「っ……」
シルバーは頑なに自分をおもてだった場所へ立たせようとしない。
ひけらかすように女を隣に居させることがデフォルトだった男がそれをしなくなったのは、本当に名無しを気に入っているから。
愛玩道具としてなのか、一人のヒトとしてなのかは考える余地もない。
ないけれど、淡く募らせてしまう想いが、名無しには邪魔で仕方なかった。
何も知らないシルバーを欺いて、あの日も、昨夜も、何があったのか……。
真実ひとつ口に出来ない薄弱な自分がナッシュにいま押し倒されていたところで、シルバーを呼び戻すことなど叶うわけもないのだ――。