rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第30章 wrong step on the stairs4
「……!わ…ッ」
「フゥ……待ちくたびれたぜ……ん」
「!……ン…」
扉の前でそれが開く瞬間の既視感も、もう何度も経験している。
嫌で嫌で仕方なかったときは、地獄に繋がるそれにしか見えていなかった。
開いたそこから腕が伸び、身体を引き寄せられるのも初めてじゃない。
ホテルの部屋に入りきると、名無しは早々にシルバーから抱擁され、キスを浴び、それを素直に受け入れた。
「んん……、は…ぁ……そ、そんなに待っ……」
「アー…待ってねえよ……冗談だ。んー…」
「ッ…ん!あ……」
「会いたかったぜ……名無し」
「っ……」
交わす言葉に既視感を覚え、背筋がきゅっと引き締まる。
数分前にナッシュに言われたそれだ……あまりにも状況が似ていて、思わず名無しは返答し損ね、ただキスに甘んじるだけだった。
きっと、二人も似ているということだろう。
見た目も、中身も、性格もまるで別と思う。
けれど女癖が悪く手が早いあたりは、どうにも違うとは言い切れなかった。
「あの……っん!」
「ハァー……長げえよなァ一週間は……そういう意味では待ちくたびれたかもな、やっぱ」
「……」
「~……おい。だから誰ともヤッてねえよ…相っ変わらず信じてねえなァ…おまえ」
「ッ……」
扉の傍で交わされたキス。
吐息や声が漏れないように名無しが配慮していたのは、ホテルの部屋という場所が原因だったのは言うまでもない。
それは誰から忠告されるまでもないことだ……たとえ此処が質の良い施設であろうとも。
本格的にベッドに入ってしまえば我慢できる自信はないにしても、今二人が立っていたのは部屋の出入り口である。
宿泊客が行き交う廊下がドア一枚隔ててすぐそこなのだから、名無しは必死に耐えていた。