rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第27章 wrong step on the stairs
「あ……」
彼がこの部屋を好きに出入りできることは分かっていた筈だ。
これが油断とでも云うべきだろうか……名無しはナッシュの言葉に立ち眩みさえ覚え、その真意を把握すべく思考を巡らせた。
もっとも、部屋に上がり込まれ、浴室まで立ち入られ、もう殆ど頭のなかにまともな回路など残ってはいなかったけれど……。
「あー……分かるぜ?昨夜はお楽しみだったんだよな」
「…、……なんで…」
「あァ?そんなもん、シルバーを見てりゃ何だって分かる……朝までヤッてたろ?おまえら」
「ッ……」
「フッ……あのバカ、珍しくずっと眠そうにしてたからな……だからゲームの後、オレの女の部屋に行ったんだよ。横にならせたらすぐ落ちやがった」
「……」
「な?いいタイミングだろう……?おまえが此処に居ることくらいサルでも理解できる」
扉を塞ぐナッシュがいつもより大きく見える。
逃げたいという気持ちがそう思わせていたからだ。
試合の為に僅かながら朝から遠出をし、地元に戻って来てからの動向を淡々と口にされる。
ナッシュの言葉を鵜呑みにしてしまった名無しは、それが本当でも嘘でも、まずはシルバーのことが知れ、ひとまず心の奥底でホッとしていた。
この状況で安堵できるなどどうかしている。
が、それはきっと自分がおかしくなっていたから。
シルバーを信じる信じない以前に、彼の情報を得られたことそのものに、胸の中は穏やかにさせられていた。
そして、一転してあっという間に地に落とされる次はナッシュの口車。
シルバーを自身の女の元に置きやってでも単身此処に来た彼の狙いなど、ひとつしかなかったからこそ足が竦む。
名無しの身体を舐めるように見下ろすナッシュの目は冷たく、鋭く、片手一本で引き寄せられれば、名無しはその腕のなかに秒で囚われた。