rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第27章 wrong step on the stairs
「……」
何の躊躇もなく踏み入れた浴室への一歩は、換気が終わっていても、シルバーが早朝に使っていたような名残があった。
男が付ける、独特の香水を薄めたような香りがその一室に浮遊している。
それは既に名無しの身体にも纏わりついていたものであり、昨夜の情事をより思い出させるには十分すぎた。
「――……」
シャワーを浴びて、そのあとはどうしたらいいだろうか。
身体への負担を考えれば、きっとこのまま帰るべきである。
が、今の名無しにそれができれば、そもそもシャワーなんて浴びもしていなかったし、駅のホームで呼び止められたとき、シルバーを無視することも可能だったであろう。
「ハァ……、――ッ?!」
何らかの想いを込め、自ら渡したものがある時点で、地の底まで落ちているのだ。
シルバーの帰りを今か今かと待ち焦がれる痛々しい女に成り下がった事実は誰にも訂正できなかったし、自分でもどうすることもできないでいた。