rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第26章 nothing in return3
『……ハァ…、くそ……ッ』
赤らみの強い頬のラインに大きな手を添え、掌に熱を感じる。
舌打ちを零したのは、彼女の寝顔を見続けている時間に別れが迫り、シルバーがいよいよ家を出なければならなかった所為である。
『――……ッ…』
まだ少し中身の残っていた菓子箱を手にし、それを着替えの入ったボストンに詰め込む。
その早朝、やがて扉が閉まった音が聞こえたのち、シルバーの自室に置き去りにされた名無しが目を覚ましたのは、彼が出た直後のことだった。
頬を撫でられたときに戻っていた意識、胸をドキドキとさせながら寝たふりを続けたのは、まだ眠かったのと、あとはシルバーにあわせる顔が無かったというのが率直な理由だった。
すがりつき、もたれかかり、シルバーに寄り添うようにして眠ってしまっていた名無しにとっては、何を話していいかもわからなかったのだ。
『……ほんとに…最低だ……私…ッ……』
身体中、無論シーツにも残っているのは重なった証と、互いの匂い。
その匂いに眠気を誘われ、名無しは再びまぶたを閉じ、無意識の世界へと身を投じた。
相変わらず、夜のあいだに鳴っていた筈の携帯に手を伸ばす元気もなく、彼女がそれを握ったのは、二度寝から目を覚ました昼のことであった――。