rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第25章 nothing in return2
『――……』
名無しは、一度は離された唇を再びシルバーにホームで奪われ、その後は無意識、気が付けば彼の部屋まで戻っていた。
服の濡れを改めて実感した時には、小雨のぱらつくなか、二人帰ってきたのだろうということを理解する。
帰宅するまでの数分間、会話は多分なかった。
そう感じたのは、一分一秒でも早く部屋に戻りたいと思っていたシルバーの胸のうちが見て取れたから。
名無しが耳元と頭のなかにずっしりと音を捉えることができたのも帰宅してからだった。
戻ってきたその音色がシルバーの声色であり、自分に向けられた言葉が玄関先で響くと、彼女は再び事の大きさを痛感した。
最低だ……。
大切な友人との約束を破り、自分をおびやかす男の傍に居ることを選んでしまったのだから。
『ン、ッ……んん…、ちゅく……ハァ…』
『はぁー……、ハッ…選んだなァおまえ……、オレ様を』
『っ……』
『あー、いいんだぜー?それで……あんま考えんなよ、もう。――そんな余裕も、オレが無くさせてやるからよ』
名無しのズキズキと疼く胸元に気付いてか否か、彼女の目くるめいた表情をキスで散らしたシルバーは、絶望の一言でその身を抱き寄せた。
キッチンに追いつめ、シンクに例の箱を投げ置く。
シルバーは名無しにそれを見下ろさせると、その瞬間の視線仕草を確かめながら、心の中で高笑いを零した。
眠気よりも勝った急激な性的欲求。
両肩を掴んでまた浴びせるキス。
今度はいやらしく舌を絡ませながら、シルバーは名無しに行為の始まりを着実に匂わせた。
シンクの菓子入りの箱を見た瞬間の彼女は、ただの愛や恋を求め、その病を進行させているかのような甘い表情をしていた―――。