rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第24章 nothing in return
「あ……」
「聞こえたよな?降りろっつってんだよ……っ」
「…ッ……でも……」
頭の中が混沌としたのは言うまでもなかった。
漂わせてしまった焦燥に、動揺だって尋常じゃない。
感じていた筈の、疎らな乗客に注される鋭い視線が気にならなくなるほど、名無しはシルバーが自分を追いかけてきた事実に当惑していた。
「オレは言ったぜ?今夜は別におまえが居なくたって構わねえってな。けどアレはなんだって話にもなるだろうが……!……見たぜ」
「、……あれは…あの……」
「……なあ…?行くなよ名無し」
「ッ……」
震える足で立っているのがきつかった。
膝から崩れ落ちてしまえば、もたれ込む場所はひとつしかない。
だから名無しは耐えていた。
今恐らく彼女が為すべきは、シルバーに掴まれ、引き寄せられた腕を振り払うことだ。
けれどそれができれば戸惑うこともなかったし、心に揺らぎが生じることもなかった。
「名無しっ」
「、……ッ」
電車の扉が閉まる――。
車両の中に留まることができていれば、もともと描いていた理想どおりの現実が、名無しの目前に広がっていただろう。
結局彼女が選んだのは、その両足を再び駅のホームにつけること……。
そして閉じてしまった扉は別の駆け込み客を乗せる為に一度だけ開いたけれど、開閉音の隣で名無しが浴びていたのは、シルバーからのきつい抱擁と、とても強引なキスだった――。
20190323UP.