rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第22章 unesiness
「……!…おい、シルバー」
「あー?」
「……あそこにいるのが名無しで間違ってねえなら、おまえ……あいつのあんな面見たことあるか?」
「あん?!何言って……、ッ……」
その日もシルバーは、名無しと部屋で会う約束を交わしていた。
無論、半ば強引に……嫌がる彼女を少し脅すだけで、そのしなやかで細い首はいつだって縦に振られた。
部屋の中での過ごし方は、たとえばベッドに寝かされることも概ね決まっている。
それだけで名無しの表情は淀み暗さが滲み、けれどそこに孕むのは、逆らえないゆえに溢れる色艶。
もはや今更とはいえ、相変わらず嫌がる彼女が抱く嫌悪感と、隠し秘める羨望の割合を逆転させることが、シルバーにとっては最近の楽しみだった。
「………」
「フッ……あんなカオで笑うんだな、あいつ……シルバー?」
「……ッ」
「!……ハハ…いちいち惚れ直しやがって……まあ相当キてんのはわからなくもねえよ」
「名無し……」
「……ああやって連れと遊んでるのか。可愛いじゃねえか」
二人が居た通りは、老若男女問わず人が多かった。
ただ道なりを歩いていたナッシュとシルバーは、もとは少しバスケットコートで身体を動かしており、今はその直後のことである。
喉を潤しながら、これから夕方までのあいだ持て余す暇をどう使うか考えようとしていたところ、時折訪れる無言を名無しの話題でナッシュが割く。
そうやって彼がよく名無しの名を口にすることを、近頃のシルバーは多少なり気にしていた。
その証拠にいちいち水を差しつつ、邪魔をするなと言わんばかりの怪訝な顔をナッシュに見せる。
「……ッ」
と、それは呆れ笑うナッシュが、シルバーに追って嘲笑を見せていたときのこと。
女でも引っ掛けるか……と口を開こうとした矢先、二人のつり上がった鋭い目つきに丸みが帯びる。
先に見つけたのはナッシュだ。
立ち止まって、まだ気付かないシルバーを呼び止め、視線の先を向かせるべく静かに声を出せば、数秒後にはその厚ぼったい唇が開かれた。
人ごみの中、自分たちとは反対方向へ歩こうとしていた、名無しの姿がそこにはあった。