rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第20章 in the maze
「フッ……チュ…、……名無しー?」
「っ……」
いよいよ仰向けにさせられた瞬間、赤い顔をした名無しは同時に目尻に光るものを滲ませ、抱える気持ちになおも葛藤していた。
それを見下ろすシルバーは口角を上げ薄ら笑みながら、その小さくて愛しい唇が開くのを、指でなぞって待っていた。
そして耐えきれずに名無しが発した言葉は、彼にとっては概ね読んでいたものだった。
「――や……めて…」
「んー?」
「め……イヤ…、誰も…――」
「聞こえねえよ……ちゃーんと言ってみ?」
「ッ…ほかのひと……は、だめ……。抱かないで…もう――」
「!」
読んでいた。
とはいえ、実際にはなかなか驚くものはあった。
たとえシルバーと言えども……おそらくはナッシュだってそうだろう。
薄ら笑っていた表情は一瞬消え失せ、真顔で名無しの言葉に耳を傾ける。
顔色の変化を隠しながら、シルバーは組み敷き見下ろした、彼女の澄んだ目に流れる涙をすっと拭った。
片腕はうつ伏せ時から施していたフェザータッチを、露見していた白肌に続けながら。
その柔和すぎる愛撫と、望むものを与えられない焦れにとうとう負けた名無しは、精一杯、自分はどうしたいかを口にした。
たとえ、願いそのものがはなから叶わないと知っているものであっても。
望むものが、相当に愚かだと分かっていても。
それは、名無しがこれ以上はもう、自分の気持ちに嘘をつけなくなった瞬間でもあった。