rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第20章 in the maze
「名無し?おい…名無し……、!」
「……ッ…」
「……ハッ…マジじゃねえかおまえ…嬉し泣きしちまいそうだぜ……ほら来いよ」
「!ひ……やだ…やめ……ッ」
自分に会うのに好みの服で着飾って来ることも、耳元に少量の甘い香水を振ってくることも、最初は口うるさく強要されてきた。
それが、シルバーが好いていた女性像のうちのひとつだった。
けれど名無しは日が経つにつれ、自らシルバーの望むなりをするようになっていた。
勿論、最初はいちいち指摘されることを嫌がってのことだった……筈なのだが。
どこで狂ってしまったのか……無意識に彼が喜ぶ容姿を選び、今こうして、耳朶に口付けられてその甘い匂いを確かめられている。
本当に他の女と寝ていたシルバーを嫌厭したのに、一度はその嫌悪感から逃げ帰ったのに。
此処へ戻ってきてしまったことで、それがなかったことにされているのが、名無しはとても悔しかった。
我慢できずに再び会いに来たと思われていること、抱かれに来たと思われていること。
そしてそれらが、否定し続けるも覆せない、事実だったことが――。