rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第20章 in the maze
―――。
――。
部屋の前。
先刻走った嫌な空気を感じなかったのは、名無しにとって喜ばしいことではあった。
だからといって、扉を開けるとまだ女は居ました……なんて展開になることだけはどうしても避けたかった。
恐怖が先行し、伸ばすべき手を伸ばせずに、部屋の前でひとり一歩を進みあぐねる――。
「……」
何かを考えても、逆に考えることをやめても、どうしてもナッシュの言葉が頭のなかをぐるぐるとしてしまう。
見透かされ、図星をつかれたひとつの想いに。
まだ認めない……認めたくない。
なぜならシルバーは、必ず自分を裏切る男なのだから。
彼は、そういう男なのだから。
「……ッ!!」
来慣れた部屋の前で女々しく佇む様は、自分のことであれなんとも惨めだ。
目的も目的だったし、みっともないったらなかった。
男受けする服というよりは、シルバーが好む脱がしやすいワンピースを律儀に纏い、彼のご機嫌を取って毎回その場を凌ぐ。
すべては握られていた動画や写真を撒かれない為とはいえ、実に情けない……。
裾をぎゅっと握り締め、ヒールを履いていた足元を見る名無しはそのとき、鈍い音が規則的に響いたのを耳にした。
そしてあっという間に玄関が開き、その中へと身体は吸い込まれた。