rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第20章 in the maze
「飼い猫が出て行って、さぞあいつはハラハラしてるだろうよ……行け」
「――……」
両頬を掴まれていた名無しのそこは、薄らと少し赤らんでいた。
ナッシュはゆっくりと名無しを解放すると、不自然だった距離感を戻し、数歩離れて自身の服の皺を伸ばす。
ため息まじりに髪に触れ、歪んだ前髪を直しながら彼女を見つめる視線は相変わらず冷たかった。
けれど言いたいことを言ったおかげか、どこか表情はすっきりとしている。
それも、手ごたえを感じたゆえだろう。
その後名無しはナッシュと別れ、彼の半ば受け入れ難かった言葉を荷に、向かうしかなかった場所へと再び歩き出した。
ここで行かなければ、きっと到着場所がシルバーの部屋からナッシュの部屋に変わるだけだ。
自分がシルバーのもとへ行くことでどういう未来が訪れるか分からなかったけれど、こういうときだけ未来が読めないというのは、彼女にとって実に不都合なものがあった。
ベッドの上ではおおよそ分かるというのに……なんとも皮肉である。
「……ッ…」
思い出してまた胸がむかむかとする……。
できれば顔をあわせたくない…他の女とは。
そして名無しは、結局鞄の中の携帯を最後まで手に取ることなく、数分後再びシルバーの部屋の前へと来ていた。