rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第20章 in the maze
「あ……」
ナッシュはおおよそ、名無しがシルバーの部屋に向かう前に出会った場所と同じ位置に居た。
まるですぐに此処へ戻ってくることを分かっていたかのような素振りだったのが引っ掛かるのは当然、その疑問が解消した瞬間、名無しは背筋にこれでもかと悪寒を走らせる。
シルバー同様、質は違えど、気の短いナッシュがわざわざ自分を待つ理由など……。
「!ひ……」
「なあ……久々にオレの相手もしろよ。…おまえも、ちょっとは期待してたろう?」
「っ……してな…」
「勢い余ってあいつの部屋飛び出して来たってことは……どっちだ?他の女とヤッてるシルバーがただ気持ち悪くて嫌になったのか……それとも」
「!!」
最初に鉢合わせたときには気付けなかったけれど、と、名無しはそこで初めて、ナッシュの首筋に赤らんでいる箇所があることを目の当たりにした。
はじめから気付いていれば色々話が読めていたかもしれない……後悔しつつ、呼び止められた彼に迫られて、路肩で立ち話を強要される。
ナッシュに鬱血痕があったのは、自分が見た女の誰かと寝ていたということだろう。
シルバーの部屋に続くこの道ですれ違ったのも頷ける。
ただ、すべてが偶然であって欲しいと思えば思うほど、考える度、それらにシナリオがついていることがいやでも分かった。
女が居るのを知っていて、それも抱いていて、シルバーの部屋に向かう名無しを呼び止めなかったナッシュを、外道と思う以外にどう喩えれば納得できただろうか――。