rain of teardrop【黒バス/ジャバ】
第20章 in the maze
「……」
約束を確定させたあと、会う日時を変更しろという連絡がくることなどざらにあった。
だからそのときの名無しは、何も疑いはしなかった。
今になってみれば疑うべきだったし、そうしない時点で、自分の何もかもが緩み切っていたと思う。
現状に甘え、逃げたかった恐怖に慣れ、それを真っ向から受け入れてしまっていた……ということかもしれない。
心がむかむかする――。
「……あ…」
「!……なんだ、これから約束か?」
「っ……」
変更後の呼び出された時間、余裕を持って繰り出すのも実にどうかしていると思う。
何処かで逢瀬を楽しみにしているとでもいうのだろうか。
勿論、名無しは最後まで認めなかったし、たとえ溺れているあいだだけはそれを演じられなくとも、平常時はつねに葛藤を抱いていた。
いつまでも続けているシルバーとの関係に――。
「……」
「、なんだおまえ……また随分といい女になってるじゃねえか…ハハッ」
「ッ……私は…あなたに用は…!う……」
「待てよ…話くらい聞いて行け……オレとおまえの仲だろう?」
「…ッ……急いでる…から…っ」
「!」
シルバーの部屋に向かうため、歩んでいたその道中で名無しが鉢合わせたのはナッシュだった。
いつぶりかの再会……明確なことは覚えていないし、思い出したくもない。
それほどまでに最初のときから、月日は長らく経っていた。
関係が続くなかで、シルバーに近しい存在ゆえ、避けられなくなっていたナッシュにも慣れる必要があったのは言うまでもない。
何を考えているか分からない男だったし、今となっては、時々顔をあわせてしまう間柄だったからこそ、ある意味シルバーよりも恐怖に感じた。
同時に、そう思うということは、やはり自分はシルバーにどこか気を許しているのかもしれないと……。
変わらず背負う罪悪感だ。