第12章 思惑
秀吉は、死を覚悟して信長に付き従うのだと思っていた。
だが、刀を受けた瞬間の秀吉に、なんの躊躇もなかった。
腕の傷が痛まないはずがないのに、今も穏やかに笑っている。
覚悟の意味合いが違うんだ。こいつは、自分の想いさえ突き通せればそれでいいと思っているんだ。
だから、こんなにも腹立たしいんだろうな。
怒りが収まらず苛々したまま、包帯代わりの布をきつく縛り終える。
「ありがとう、なつ。」
秀吉の大きな手の平が、いつものように頭を優しく撫でようと手を伸ばしてきた。
「ごめんな、怖い目に合わせた。」
それを、触れる前に、思いっきりなつは弾いた。
「本当にな。こんなに腹立たしい場面を見せられたのは、初めてだ。」
「腹立たしいって・・・こんな時まで強がるな。この程度、俺は慣れっこだ。ただ・・・・可愛くて大事な妹分を戦に巻き込んだのは、初めてで、怖かった。」
「え・・・・・?」
「なつが無事で、本当によかった。」
「・・・」
秀吉が、命を捨てることに迷いのないことが、無性に哀しくなる。
愛しているから、たとえ離れ離れになるとしても、生きてほしかった。
「約束する。二度と、お前をこんな場には連れてこない。」
「・・・・・」
秀吉の表情が陰ったような気がして、尋ね返そうとしたとき・・・・
「済んだか、秀吉。」
「---はっ。お待たせをいたしました。」
信長がこちらを振り返り、会話は途切れてしまった。
「では、不届き者どもの、将の顔を改めましょう。」
見ると、襲撃者たちは縛り上げられ、地面に転がされていた。
その中へ、信長がゆったりと歩みを進め、顔を布で隠した一人の男の頭を掴み上げた。
「貴様が、この者たちの頭だな。」
「なぜ、私だと・・・・」
「貴様だけは傷つかぬよう、部下どもが器用に立ち回っていたからだ。この俺に奇襲をかけた度胸は、褒めてやろう。貴様の名を聞いてやっても良いぞ。」
信長が冷酷な笑みを浮かる。
「聞く必要があるのか?」
敵将の口元を覆う布を乱暴に引きはがす。