第12章 思惑
「信長様、なつ!」
馬を降りた秀吉が、こちらへまっすぐ駆け付けた。
信長の乗る馬の足元に、姿勢を乱さず膝をつく。
「信長様、ご無事で何よりです。」
「ああ。大儀であった。」
「秀吉、腕を・・・」
「なつ。」
え・・・・・っ
言葉を遮られ、真剣なまなざしに射抜かれる。
立ち上がった秀吉の手が、なつの頬に触れた。
「・・・・・・・・・・・・・」
「な、なんだ?」
「じっとしろ。」
険しい表情で私なつの頭からつま先までを見つめた後、
秀吉の唇からかすかな吐息が漏れた。
「怪我はなさそうだな。無事でよかった。」
「っ!秀吉の怪我、見せろ!」
「ん?ちょっとかすったくらいだ。問題ない。」
切り傷だらけの顔で、秀吉はにっこり笑う。
このやろう・・・死を覚悟するの意味を全く分かってない!!
「駄目だ、今すぐ、止血だ。」
「大丈夫だ、あとから自分で・・・」
「大丈夫じゃない!」
「・・・・っ」
「すぐ終わらせる。」
「秀吉、言うことを聞いてやれ。貴様の腕は、織田軍にとってそこまで安くはない。」
「・・・・畏れ多いお言葉です。じゃあ、悪いけど頼む、なつ。」
「・・・・・ああ。」
こんな時でさえ、信長の言葉がなければ、駄目なのか?・・・
信長は馬を折り、家臣をねぎらうためそばを離れた。
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身に着けていた着物の袖を、思いっきり引っ張る。
引きちぎって細長くし、自身が使っている塗り薬を秀吉の腕に塗ってから布を巻き付ける。
「全く、無茶をする。これは応急処置だ。帰ってからしっかり手当を受けろ。」
「・・・・・ああ。」
二の腕の高い位置と、傷跡の二か所を強く布で縛る。
幸い傷はそこまで深くないみたいだった。
「刀を腕で直接受け止めるなんて、滅茶苦茶だ。そもそも、あんな大勢の敵の中に、ためらいなく飛び込んでいくなんて・・・」
「俺にとっては、あれが、当たり前だ。」
当たり前・・・・
「言っただろ。俺の命は、信長様のためにある。」
迷いのない笑みをみせる秀吉になつは腹が立って仕方なかった。