第12章 思惑
「どうやら俺に客のようだ。」
「信長・・・」
信長の言葉に、なつは目を合わせ、視線だけでやり取りをする。
それから前へ目をやると、秀吉が無言で、刀の柄に手をかけるのが見えた。
視線を走らせ、注意の部下たちに目で合図を送る。
「飛ばすぞ。命が惜しくば落ちるなよ。」
「落ちても、怪我一つしない自信はあるがな。」
言いながら、なつは信長の胸元を掴む。
端から見て、怖がり信長に縋り付いて見えるように。
秀吉を筆頭に、隊が一気に速度を上げた。
それと同時に、林の陰から馬がどっと飛び出してくる。
馬上から黒装束をまとい弓を手にした男が、太い声で叫ぶ。
黒装束の男「信長、止まれーーーー!!」
ひょう、と宙を切り、矢がこちらへとまっすぐに放たれた。
「ぬるい。」
信長が刀を抜き放ちざま、矢をたたき切る。
この間、5秒。
周囲を見回すと、三十人を超える男たちが追いすがってきている。
「これ、この人数で切り抜けられるのか?」
「当り前だ。返り討ちにするまでだ。」
余裕なつぶやきと同時に、矢が次々にこちらへ射かけられる。
信長はなつを片手でかばい、脚だけで馬を御しながら、矢を薙ぎ払っていく。
背後から迫る矢を、信長が身をよじって切り折った直後、
黒装束の男「信長、覚悟-----!」
前方から、刀を振り上げた敵が馬を操り突っ込んできた。
「・・・」
「・・・・・・」
信長が、これに対応できないのは瞬時に判断できたが、勿論、周りの動きもしっかり把握していたなつは手を出さずに、見守った。
憎しみに歪む敵の顔が、目視できるほどに近づいた瞬間----
「お前の相手は俺がしてやる。」
険しい声が響き、敵が身体を後方へねじった。
黒装束の男「ぐ・・・・?!」
逆光の中で刀がひらめき、敵の身体が馬上で揺らぐ。
ドサリ、と音を立て、男が視界から消えると-------
はためく紅い羽織と、銀色の長刀が目に飛び込んできた。
「この程度の力量で信長様にたてつくとは笑止千万。----恥を知れ。」