第11章 日常~3~
「ほら、水もってきたから飲め。」
「ん・・・」
水の入った革袋を、おとなしく受け取る。
「迷惑をかけたな。だが、実際のところは全くと言っていいほど酔ってなどないぞ。」
「嘘を吐くな、でなきゃ・・・あんなの駄目だ。」
「・・・あんなの?」
「ああいう無防備な顔を人前で晒すな。どこぞの男にかっさらわれても文句言えないぞ。」
あぁ、確かに、普通の男なら簡単に引っかかるかもな。
だが、私は、秀吉が思うような女じゃない。
「さらわれたりなどしない。」
「----現に、俺に連れ出されてるだろう。」
秀吉が呟いたとき、風が吹き抜けた。
「え・・・・?悪い、よく聞こえなかった。」
「なんでもない。それより、水。」
「・・・・ん。」
納得していない秀吉に促され、革袋の水を飲む。
その水の冷たさと一際強く吹いた風に身震いする。
「悪い、寒かったか?これ着てろ。」
秀吉は羽織を脱ぐとなつの方にふわりと掛ける。
秀吉の香だ・・・
反射的に、胸が締め付けられ、抑え込んでいた気持ちが一気に駆け上がる。
「秀吉は、誰にでも・・・こんなにやさしいのか?」
「・・・・・・いや。」
たた一言で、心臓が跳ね上がる。
「なぜ、私にやさしくする?」
「優しくするのに理由がいるのか?」
っ・・・ずるいな。そんなふうに尋ね返すなんて。
心を揺さぶられ、何も言えなくなった。
あと2カ月しないうちにこの時代を去るつもりなのに、言葉にしても仕方ない。
それでも、想いは止まらない。
秀吉が好き。言えないし、言わないけど、愛してる・・・
口に出せずに、ただひたすら秀吉を見つめると・・・・
「・・・酔って、気が立ってたんだな、なつは」
(あ・・・・・)
普段よりもいっそう優しく、秀吉が頭を撫でた。
(酔ってるわけじゃ、ないんだけど・・・・・)
「部屋まで送ってくから休め。」
「・・・・・・あと、少しだけ。」
なつ伸ばされた指先を、握り返す。
「・・・くそ!」
次の瞬間、甘い香りが全身を包んだ。
たくましい腕が背中に回り、寒さを忘れた。
「なぜ、抱きしめる・・・」
「・・・今夜は少し冷えるからだ。」
自覚した思いが心臓を高鳴らせて、いつまでたっても鼓動が鳴りやまなかった。