第11章 日常~3~
「なつ、何を呆けている。こっちへ来て酌をしろ。」
「・・・・ふぅ、仕方がない。」
上座から声がかかり、なつは信長様の側へ上がる。
蜜姫が不安そうにこちらを見るが、直ぐに政宗や光秀にに捕まっていた。
「どうだ?」
「そうだな、今の処あの件以外は動きもない・・・。」
言いながら、信長に酌をする。
「貴様も飲め。」
「ああ・・・・」
杯を傾けると、お酒がよい香りを放ちながら喉を滑り落ちた。
うまいな・・・
そのまま、信長様の側でお酒をゆっくり飲んでいると・・・・
「失礼します、お館様。」
秀吉・・・・?
大股に歩み寄ってきた秀吉が、隣に膝をつく。
なつを間に挟み、真剣な顔で信長に頭を下げた。
「お館様、あまりなつに飲ませすぎるのはいかがなものかと。お相手なら私が務めます。」
「それも良いが、貴様は酔うと若干ややこしいからな・・・・」
「そうなのか・・・?」
なつが首を傾げれば、信長が子供のようにいたずらっぽく笑って見せた。
「こやつは酒に酔いやすい質でな。酔うと、己の本心を延々語りだす。」
「っ・・・・すみません、自覚はしているのですが。」
「自覚があるのか・・・面白そうだな。」
「こら、何言ってるんだ。」
最近、自分を取り繕えなかった苛立ちに、秀吉の動揺と本心を見たいと思ってしまう。
「秀吉が思ってること、本心をもっと知りたい・・・・」
「え・・・・・・」
「秀吉のこと、もっと、全部、知りたい・・・」
「っ・・・・・」
「・・・・ほう」
「酔ってるだろ、なつ。相当飲まされたな。」
「・・・。確かに酔ってるかもな。」
酒じゃなく、秀吉にな・・・
隠しているつもりが、ここ最近は気を抜けば、秀吉に自分を晒していたとなつは仕返しのつもりで口を開く。
「だが・・・本心だ。」
「・・・・もういい。わかったからそれ以上言うな。」
「なるほど。面白いことになっているようだな、秀吉。」
「・・・何のことやらわかりません。それより、なつは連れていきますよ。来い、なつ。酔いを覚ましに行こうな。」
「必要ない・・・・・」
「だーめーだ。言うこと聞け」
半ば強引に、秀吉に広間を連れ出された。
人気のない廊下へ出ると、宴の喧騒が遠くなる。