第11章 日常~3~
「あれ、片付け残しがあるな。秀吉様のようなきちんとした方が、珍しい。それに今、少し小走りだったな。”廊下は走るな”とよく仰っているのに。ウニ、秀吉様が動揺なさるなんて、いったい何があったんですか?」
「キキ・・・?」
ウリは、さっそく名前を間違えた三成に、キョトンとした顔で首を傾げた。
いい反物が手に入ったな・・・
夜、部屋に戻ったなつは、反物を蜜姫の処へもっていく。
「蜜姫、今、いいか?」
その問いに、直ぐに襖が開いた。
「どうぞ、珍しいね。なつから訪ねてくるなんて。」
部屋へ招き入れ、お茶を用意する蜜姫になつは構わず、話を進める。
「ああ、これで、秀吉に羽織を作ってくれ。」
そう言って、反物を広げるなつに蜜姫は嬉しそうにする。
「OK。でも、なつが誰かに落ちるなんて、ちょっと予想外だったな。」
「そういう、お前はすでに信長に篭絡してるだろうが。」
「えへへ。まあね。でも、言うつもりはないよ。もうあと2か月だし・・・」
「そうだな。佐助はなんて?」
「うん、大戦でみんながいなくなる隙に出ようって。」
「そうか。お前は帰るのか?」
「・・・え?」
「いや、残るという選択肢もあるだろうと思っただけだ。」
「!!」
「まあ、お前はお前だ。私は帰るつもりでいるがな。羽織、なるべく早く頼むぞ。おやすみ。」
なつは妖艶に笑い、自身の部屋に戻った。
買い物にお茶に、のんびり散歩して、楽しかったな・・・。秀吉は・・・。
「なつ様、失礼いたします。」
「どうぞ。」
訪れた女中が、なつに笑いかける。
「信長様から伝言です。明日の宴に、なつ様も列席なさるように、と。」
「宴・・・?」
「越後と戦を構える前に、士気を上げる前祝いをなさるとか。」
皆で集まるのは久しぶりだな。
「わかった。参加しよう。」
女中が去った後、なつは秀吉に買ってもらい、蜜姫に仕立ててもらった着物を眺めていた。
そして翌日の夕刻、安土城では、家臣を集めた大宴会が開かれた。
大騒ぎだな。
越後との戦を前にした宴には、大勢の家臣が集まっている。
秀吉は遠くで家臣たちに囲まれ、楽しそうに笑っている。