第11章 日常~3~
「私は・・・文は書かない」
「え?」
「文をだしたとて、返事など待てないからな・・。戦が終わったら、秀吉に一番に逢いに行く。もし帰ってこなかったら・・・探しに行く。」
「・・・・っ」
正確には、一緒に戦場に出て、命を無駄にしないよう、見張っていてやる。と言いたいところだがな。
秀吉を見つめる中、部屋が静寂に包まれる。
やがて呆れたように肩をすくめた。
「ったく、無茶なこと言うなよ。」
こぶしで軽く額をたたかれる。
「まあいい。これは俺が片付けるから、先に表で待ってろ。」
「・・・・・ああ。」
廊下へ出たなつは、大きく溜息をついた。
自分から、秀吉に知られたくないと言ったのにな。
今は、話したくてしょうがない。
私は、弱くないと。背中を合わせて戦いたいと。
なつが先に部屋を出た直後、三成が秀吉の元を訪れた。
「秀吉様、お出かけになると伺ったので子ザルを預かりにまいりました。」
「・・おう。悪いな、助かる。あと、子ザルじゃなくて名前で呼んでやれ。」
「あ、ええっと・・・サケ、でしたっけ?」
「ウリだ、ウリ。二文字ってことしかあってねえぞ。動物に興味がないのは知ってるが、そろそろ覚えてやれ。」
なつの話だと、三成が名前を呼んでくれないことに不満を持っているみたいだしな。
「すみません、秀吉様。失礼しました、ウリ。にしても、お部屋が散らかってるなんて珍しいですね・・。私が片付けておきます。」
「気持ちだけもらっとく、二次災害は避けたいからな。」
言葉を濁して答え、秀吉は手早く文を重ねていく。
「ウチ、あなたはこっちへ来てください。秀吉様の邪魔をしては・・・、待て、言うことを聞きなさい。」
三成がウリを捕まえようと部屋をうろうろしている一方・・・・・
文を束ねる秀吉はどこか上の空で、作業がはかどらず、不意に手を止めた。
「・・・あー、くそ。どこが”子供同然”だよ」
なつの切なげな声が耳から離れず、こらえていた吐息が秀吉の口から洩れた。
「何かおっしゃいましたか・・?」
「・・・いや、なんでもない。じゃ、ウリをよろしくな。」
「はい、かしこまりました。」
ウリを捕まえられない三成にかわり、ウリを捕まえて抱かせてやる。
そして、秀吉は慌ただしく部屋を飛び出した。