第11章 日常~3~
「・・・今日は、ウリばっかり撫でるんだな。」
「なんだ、不満か?」
秀吉の問いに、思わず本音が漏れる。
「少し・・・」
「・・・・そうか。お前も俺と同じみたいでよかったよ。」
「え・・・?」
「俺も近頃、お前の頭撫でないと落ち着かないんだ。」
ふっと笑って、秀吉が腕を伸ばす。
手のひらが触れた瞬間、なりだした自分の鼓動が、耳障りなくらい煩い。
「秀吉は、大人だな・・・・」
「ん?まあそうだけど、どうしたんだ突然。」
「秀吉に比べたら、私は子供同然なのかも知れんな。」
「・・・そうでもないぞ?」
冷静に考えれば、雲の上の存在だ。
それに、比べて、私は・・・今の自分にさえ満足していない。
女のくせにと言われるのが嫌で、あらゆる武術を身に着け、身体能力で劣る部分は知略でカバーしてきた。
それでも、天性の物には勝てない。
そんなことを考えていれば、秀吉が不思議そうに顔を覗き込んできた。
「なつ?どうかしたか?」
「いや、何でもない。」
「そうか?なら、そろそろ出かけるぞ。」
秀吉の言葉に、なつがウリを下ろして立ち上がる。
すると不満そうにウリが走り出して、文机の横にあった文の山を突き崩した。
「こら、ウリ!!」
駆けまわるウリを、秀吉が追いかける。
秀吉がウリを保護しようとする傍ら、片付けようと文を拾い上げていると・・・
「秀吉、この文の差出人、女の人ばっかりだな。」
「あー・・まあ、そうかもな。」
文を拾う手がとまり、複雑な気持ちが沸き上がる。
「戦に出てる間にあちこちから届いてた、俺の身を案じて送ってくれたんだろう。少し前まで長期遠征に出向いてたから、たまりにたまったんだ。」
「そうか・・・」
まあ、この時代の武将たちは、筆まめな人が多かったはずだからな。
「そうだ、次の戦が始まったらなつも、気が向いたときに俺に文を送ってくれ。」
「私がか・・?」
「おう。戦場に出てる間は読めないが、帰ったらあとの楽しみができて、士気が上がる。もし無事に生きて戻れたら、一番に返事を書くから。」
冗談めいた口調だけど、”もし無事に生きて戻れたら”の一言が、胸に深く刺さった。