第10章 日常~2~
「ふぅ・・・秀吉のことだ。」
「なんだ、あっさりしてるな。」
「最近、もやもやするんだ。子ども扱いされてるみたいで・・・。まあ、自由気ままな自分が悪いんだが。」
「なるほど、自己分析は正しくできているようだな。」
「・・・わかってるさ。だから、一緒にいると、ぎくしゃくする。」
「それでお前は、この世の終わりとでも言いたげな顔で悩んでいた、と。」
「そこまで、だったか?」
”くだらない”と一刀両断される覚悟を決めるけれど、意外にも、光秀は淡々と尋ね返してきた。
「ではお前は、ぎくしゃくする前の関係に戻りたいのか?子供をあやすように甘やかされ、妹のように扱われるだけの関係に、という意味だ。」
「っ・・・嫌な言い方をする。」
苦笑を浮かべるなつに光秀は重ねる。
「だったら、先へ進め。結果がどうなるのかは、俺は知らないがな。」
先へ、か・・・・・
光秀の声は思いのほか力強く響き、一瞬、胸が軽くなった。
けれど・・・・
「先へか。それには色々と障害があってな。」
私はあと二カ月で、この時代を離れる。
いや、残ったとして、この気持ちを表に出せば多分、私は私でいられなくなる。
「お前が頭でどう考えていようが、手遅れだと思うぞ。」
「手遅れ?」
「かえって、秀吉のことを考えながら鏡を見てみろ。お前がやつをどう思っているか、すべて顔に出ている。」
揶揄い交じりに見下ろされ、頬を手のひらで覆う。
「そんなに、表情を取り繕えていないか?駄目だな・・・あいつのことになると、感情の操作がうまくいかん。」
「少なくとも俺にとってはな。秀吉は知らん。」
「あいつのことを考えなければ、別にどうこうないんだがな。」
「お前は、俺と似てると思ったが、やはり違うようだ。」
光秀さんがふっと吹き出し、おかしそうに笑いだす。
「いや、同じだ。秀吉に対する感情については否定しないが、根本は同じだ。己を隠し、常に利を考えている。という点ではな。」
笑う、光秀になつも苦笑を浮かべた。