第10章 日常~2~
これまで見た怪しい微笑とは違い、どこかくつろいでいるように見えて、どうやら、光秀も自分に心を許したとなつは感じていた。
「・・・そんなにおかしいか?」
「いや。あけすけで幸せそうな悩み事が物珍しくてな。俺には、そういう微笑ましい類の話題は縁遠い。」
縁遠いか・・・・
「縁遠くしているのは光秀自身だろう?」
「ん・・・・・?」
「何考えてるのかわからないし、ニヤニヤしてるし・・・もっと今みたいに、あっけらかんと笑っていれば、今のような立ち位置にはならんと思うが?」
「・・・・・・・」
「光秀の本音を知りたい人は、たくさんいると思うぞ。私は、ともかくな。」
「・・・やれやれ。安易にそういうことは言わない方がいい。」
「え?」
「お前の兄が、気が気じゃなくなるだろうからな。」
苦笑いをする光秀の表情は、少し優しげに見える。
「さて、おしゃべりはここまでだ。せいぜい秀吉と仲良くすることだな。」
「あっ、待て。」
歩き出した光秀の背中に、慌てて声をかける。
「私には必要ないが、秀吉には、たまには本音を言ってやれ。」
「・・・秀吉に?」
「秀吉は、光秀の本心を聞きたいと思ってるはずだからな。」
「お前は、本物の妹でもないのに奴にも少し似ているな。」
「は?」
「大のつくお人よしだ。」
「・・・クス。違う。私の自己満足だ。」
光秀の言葉に、なつは苦笑しながら答えるのだった。
忙しい秀吉と顔を合わせることもないまま、数日が過ぎた夜。
「なつ様、文が届いておりますよ。」
「ああ、ありがとう。」
女中さんが届けてくれた文を、蝋燭の明かりにかざす。
秀吉からか・・・
達筆な字で書かれた差出人の名に、まじまじと見入った。
”前略 なつ様
明日、俺の御殿に遊びに来い。一日暇ができたから・・・・あられの礼をする。一日構い倒すから、そのつもりでいろよ?”