第10章 日常~2~
なつが立ち去った後。
「・・・今のは、俺を慰めようとしたとか、そういうことか?」
かすかに熱を持つ頬を、秀吉は手の甲で押さえた。
柔らかななつの手のひらで撫でられた箇所が、むずがゆい。
「・・・まずい。妹に、見えなくなってきた。」
鳥たちからの報告を受け、取り敢えず静観でいいと判断したなつの心には、再び秀吉への想いが侵食していた。
前は、こんなんじゃなかった。いや、今までこんなに心惹かれるやつはいなかった。
それに今までは、秀吉の親切を素直に喜べた。妹みたいに甘やかされることが、ありがたかったし、悪い気はしなかった。
無意識に手を伸ばしていしまうなんて、現代の仲間が知ったら卒倒するだろうとなつは苦笑する。
そして思わずため息が漏れた、その時・・・・
「ずいぶん憂い顔だな、なつ。」
「光秀か・・・」
通りかかったらしい光秀が、にやりとわらって歩み寄る。
「今日は一緒じゃないのか?」
「安心しろ。七里殿は今日は一緒じゃない。」
「そうか。」
「俺との約束は守ってるだろうな?」
「当り前だ。誰にも言ってはいない。」
「よし、良い子だ。」
満足そうに微笑み、くしゃっと頭を撫でられた。
「約束を守った褒美に、悩みがあるなら聞いてやろう。」
「は・・・・?」
「難しい顔していただろう小さな頭で考えるより口に出した方がいくらかましだ。」
このやろう・・・私を蜜姫と一緒にしてやがる。
返事を待つ光秀の眼差しは、面白がっているようにみえる。
けれど、ほんの少し親切心も混ざっているようにも思えた。