第10章 日常~2~
「さて、用事も済んだし、帰る。」
「まあ待て、今、茶を淹れるからゆっくりしていけ。」
「三成から、相当忙しいと聞いている。無理をするな。」
「大げさだな、三成の奴。仕事はあとでちゃーんと片付けるから問題ない。」
「なら、私がお茶を用意しよう。」
「だめだ。なつは黙ってもてなされろ。」
立ち上がりかけた秀吉の笑顔は、疲れなんて知らないと言いたげだ。
いつもなら、笑って座る所だが、好きになったヤツが倒れでもしたら、そちらのほうが問題だ。
考えるより先に身体が動いた。
「?!」
たくましい腕をつかんで、ぐいっと引っ張りよせる。
畳に膝をついた秀吉の顔を、そのまま覗き込んだ。
「無理に笑う必要はないんだぞ?」
「え・・・・っ」
「忙しくて相当疲れているんだろ?私に気遣いなどいらん。」
秀吉のそういうところは、以前光秀が言っていた趣味なのかもしれないが・・・
「私の前では、作り笑いも、平気なふりも、する必要はない。」
「お前、そんなことで怒ってるのか・・・・・?」
「”そんなこと”か。本気で言っているのか?」
「まったく・・・。急に怒り出したと思ったら、なんだそのかわいい理由は。」
「え・・・?」
「あー・・いや、とにかくだな」
咳ばらいを一つして、秀吉はなつの顔を見つめ返した。
「誤解してるぞ。俺は無理に笑ってなんかない。」
「嘘だな。」
「即答するな!嘘じゃない。なつが来てうれしいから笑ってるんだ。」
っ・・・・こいつはまた・・・
さらっと喜ばせるような内容を口にしやがって。
内心とは裏腹に喜びが湧いてくるが、ぎりぎり踏みとどまる。