第10章 日常~2~
「なつ様、失礼いたします。」
夕刻、訪れた三成を、なつは部屋へと招き入れた。
「どうした?軍議は終わったのか?」
「今日のところは。ですが明日以降も当分続きそうです。」
「そうか・・・・・」
取り敢えず、光秀の件以外には今の処、動きはなさそうだし、このまま上杉側は戦へ突入とみても良さそうだな。
「今晩はなつ様に一つお願いがあってまいりました。」
「なんだ?私に頼んでもやるかはわからんぞ。」
信長からの命以外はな・・・
「実は、秀吉様のことです。」
三成の言葉に、なつは内心驚きが隠せないが、表情には出さない。
「秀吉様はここのところ忙しくて、まともに休んでいらっしゃらないのです。御殿へ戻られても、書簡を片付けたり、方々へ文を書かれたりと、仕事に追われておられて・・・・」
まあ、そうだろうな。本人も信長の為なら身を粉にしても構わないと言っていたし。
”妹じゃない”と手をはねのけてから、秀吉の前で笑える自信がなく・・・・ここ数日、逢う度に何かと甘やかそうとしてくる秀吉を避けていた。
「なつ様、秀吉様の元を訪れてはくださいませんか?」
「は・・・?そんな、忙しい時に邪魔しに行けとでも言うのか?」
「忙しいからこそ、ですよ。妹のようにかわいがっているなつ様の顔を見れば、秀吉様も心が和むと思います。」
ふわりと笑う三成になつは内心舌打ちをする。
出来れば、顔を見たくはないが仕方がない。仕事の効率が落ちたりすれば、それだけ、勝機が下がるのは明白だ。
「わかった。明日にでも秀吉の処へ行こう。」
「ありがとうございます。」
邪気のない笑顔に押し切られる形で、なつは三成の願いを引き受けた。
「はぁ・・・誰か、この気持ちを代わりに貰ってほしいものだ。」
「なつ、今平気?」
三成が去り、呟いていればそこへ、蜜姫が訪れた。
なつは襖を開け、招き入れる。
「どうかしたか?」
「うん、結構時間かかっちゃったんだけど、これ。」
蜜姫は言いながら、持っていた着物を広げた。
「ほう・・・」
「どうかな?」
「着てみてもいいか?」
「勿論!!」
なつは蜜姫の持ってきた着物に着替え始める。