第10章 日常~2~
数日後
「・・・なんなの、あれ」
「え・・?」
必要な資料を書庫から運び出していた家康と三成は、廊下でふと足を止めた。
廊下のずっと先になつと秀吉の姿がみえ、会話が聞こえてきた。
「なつ、その大きな花瓶をどうする気だ。重い物は持つなって言ってるだろ。」
「わかってる。蜜姫と運ぶことになっているから大丈夫だ。」
「広間に飾るんだろ?ついでに俺が運んで・・・・・」
「問題ない。それより秀吉、軍議があるだろ?早くいけ。」
「・・・おう。」
残念そうに肩を落とし、秀吉が背中を向ける。
なつは口を開きかけるが、結局何も言わず、蜜姫に声を掛け花瓶を運び始めた。
「これはいけない、私が代わりになつ様たちのお手伝いを・・・」
「待て」
行こうとする三成を、家康が押しとどめる。
「余計な手出しはするなよ、三成。なつが自分で断ったんだから。手伝う方が迷惑だ。」
「・・・そう、ですね。」
「だいたい、他人の手伝いっていうのは、自分で自分の面倒をみられる人間のすることだろ。」
「なつ様は秀吉様の妹君のようなもですし・・・もはや私にとっては”他人”では・・・」
「お前が注目すべき点はそこじゃないから。」
二人が言い合っている間に、なつたちの姿は見えなくなった。
「運べたみたいだね。」
「ですが・・・心配です。あのように、秀吉様の申し出をお断りになるなんて。つい最近まで、ご兄弟のように仲睦まじい様子だったのに。」
「過保護な兄がうっとおしくなってきた・・・って感じでもないな。この前もなつは、秀吉さんが申し出た買い物の手伝いも断ってたし。」
「あ・・・・秀吉様の御遣いに蜜姫様と来られた折も、おやつを進めても召し上がらず御帰りになりました。」
「おい、喧嘩でもしてるのか、秀吉となつは。」
「政宗さん・・・?あんたも今の見てたんですか。」
「いや、秀吉とそこですれ違ったんだが、珍しくしょぼくれてたんでな。」
通りがかった政宗が二人に歩み寄り、怪訝そうな顔で肩をすくめた。
「あの男が憔悴するなんて、いったい何があった?」
「さあ、俺たちにもわかりません。」
「このまま放ってはおけませんね。なつ様と話してみます。」