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意のままに

第9章 日常





「だが、まあ少しでも役に立てたなら、よかった。」


惚れてしまったものは仕方がない。
だが、悟られぬよう気を付けなければな。


いつもより、柔らかい笑みを自分が浮かべていることをなつは自覚する。

すると、秀吉の切れ長の目が優しく細められた。

「少し、じゃないよ」
大きな手の平が、私の髪に触れ、そっと頭をなでる。

「なつが俺にくれてるものも、たくさんある。」
「・・・?」
秀吉の言葉に、なつは視線を合わせ、首を傾げる。

いつもはすぐ離れる指先が、なぜか今日は髪に絡まり優しく梳いていく。
指で触れられるソアから、ぞく、と甘い感覚が広がった。

「おいっ、秀吉・・・・?」
「・・・・ん?どうした?」


どうした、じゃないっこの人たらしめ。


甘い笑顔が間近に迫り、鼓動が早くなる。

「・・・なんでも、ない・・・・」


なんでこんな風に触れるのか・・・。でも聞いて、この指先が離れるのは、嫌だ・・・


さっきから、ほのかな甘い香りが鼻をくすぐる。


いつまでも、触れていてほしいなんて思うとはな。
全く、厄介なものだ。


そんな切望が沸き上がって、秀吉をまっすぐ見つめる。

「・・・・・・・・・。・・・・・」

気づけば、秀吉さんの口元から笑みが消えている。


秀吉は今、何を考えてるんだろうな・・・・


長い指が、淡い力で私の髪を持て遊ぶ。


っ・・・・ぁ


痺れるような感覚が肌を走って、声が漏れそうになるのを唇をかんで耐えた。


どくん、と心臓がひときわ大きく音を立てたとき、秀吉がすっと目をそらした。

「・・・・大事なこと言い忘れてた。」


長い指先が私の髪をすり抜けていき、離れる。
なつは、それを残念に思う。

「なつが光秀の謀反を疑わないって言ってくれるのがありがたいけど・・・あんまりあいつに近づくなよ?」
「何故だ?」
「光秀が怪しいことに変わりはないからな。大事な妹が悪い男に引っかかったら困る。」


妹。か・・・

仕上げのように、ぽんっと頭を撫でられる。
それは、さっきの甘い一瞬をリセットするような、悔しいほど健全な仕草で・・・・





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