第9章 日常
「っ・・・・妹じゃない。」
「え・・・・・・」
「私は、秀吉の妹なんかではない!」
思わず叫び、なつはいつもの表情を作ることが出来なかった。
秀吉の手から頭を引き離して、ぐいっと押し返す。
「なつ・・・?」
・・・っ、しまった。
ここまで、感情が隠せないとは。
「悪い。気にするな。」
何とか感情を押し込め、表情を戻し、秀吉と目を合わせないよう顔を上げる。
「・・・・・・・・・・・・」
「仕事中に引き留めたな。それじゃ。」
「っ・・おい、待て!」
踵を返し、半ば走り去るように廊下を進む。
「こら、廊下は走るな・・・!」
一方、駆け去るなつの背中に、秀吉はとっさに腕を伸ばした。
「・・・・・・・・」
指先が宙を撫で、思い直したように腕を下ろす。
足音が遠ざかり、なつの姿はそのまま見えなくなった。
「”廊下を走るな”って・・・・何言ってんだかな。」
秀吉は苦々しくつぶやき、なつに触れた手のひらを握り締めた。
まるでつややかな髪の感触を惜しむように。