第9章 日常
「身分なんてない世を作ることは、俺自身の夢でもある。そのためなら何でもする。身を粉にしてもかまわない。」
甘いトーンなのに、秀吉の声はひどく切実に響いた。
あぁ、そう言えば、秀吉はなり上がりだったな。
確か、農民だった秀吉を信長が取り立ててここまで上り詰めていたはず。
「お前はさっき、”身分なんてつまらないこと”って、言い切ってたよな。反物屋の男は、その言葉に救われたと思うぞ。」
「普通だろ。」
少なくとも、私の生きた時代ではな。
「普通・・?」
「言っただろ。”深く考えていった言葉じゃない”って。私にとってあの店主は、世話になってるし色々と教えてくれるすごい人だ。身分がどうとか関係ない。私はあの人を尊敬してる。ただそれだけだ。」
まあ、私と言うより、蜜姫が教わってるんだがな。
「・・・・・・・・・・・」
秀吉は黙ったまま、じっと私を見つめている。
「ありがとう。」
「・・・?なにがだ?」
「俺があの反物屋だったら、お前に礼を言うだろうと思っただけだ。」
「そうか・・・」
「おう。間違いない。」
頷きながら秀吉は、何かに耐えているような顔をしている。
しかしそのあとすぐに、秀吉の世間話で重い空気は一掃されてしまった。