第9章 日常
感極まった様子で武士たちが去った後・・・・
「----で、なつ?」
あ、やっぱりそうなるか。
なつが顔を上げれば、間近で顔を覗き込まれた。
「無謀な奴だと思ってたが、想像以上だったな。」
「フフ、無謀も何も私は秀吉とは違うやり方で納めるつもりでいたんだが?」
「あのなぁ・・・。拳を振り上げる武士の前に飛び出すなんて、無茶が過ぎる。女の子なのに怪我でもしたらどうするんだ。」
叱るような口調なのに、声がとても優しい。
「・・・悪かった。だが、偶然もここまでくると必然だな。」
「来てよかったよ。何もなくて、ほんとによかった。」
なつの頭を、大きな手の平がそうっと撫でる。
「じゃ、帰るぞ」
秀吉は言いながら、なつの手を取る。
そんな仕草に、なつ心臓はざわつく。
「待て、まだ目的を果たしてない。」
「目的?」
「奥の茶屋のお団子。」
「ップ・・・アハハ!!」
なつがそう言えば、秀吉は噴き出すように笑った。
「お前が甘味が好きだったとは知らなった。」
秀吉の満面の笑みに息が詰まった。
「・・・ッ!!」
それを、悟られないよう、もう一度笑みを意識して作り歩き出す。
しかし不覚にも早まった鼓動は中々収まらず、小さくため息をついたとき・・・
「・・・お館様がなつを気に入った訳が、今日なんとなく分かった。」
「・・・?」
「考え方が少し似てる。」
「私と信長がか?光秀のほうが近いと思うぞ?」
「確かに光秀とも似てるが。信長様があの場にいたらお前と同じことをおっしゃっただろう。”身分などつまらないことを理由にするな”ってな」
なんだ、そんなところから見ていたのか。
「あれは深く考えて言った言葉じゃないがな。しかし、身分を気にしないとは、少し意外だったな。人を見る目はずば抜けてあるとは思うが。」
「あの方は、素晴らしい理想と信念を持っておられる。」
「ほう?」
「あの方が天下布武を成し遂げて作ろうとしてるのは・・・・誰もが出自に関係なく、実力次第で何物にも慣れる、そんな世だ。」
「なるほど。身分制度のない平等な世の中って、ことか。」
「おう。」
まばゆい陽ざしをうけ、秀吉さんがかすかに目を細める。
希望に燃えているような横顔に視線を吸い寄せられた。