第9章 日常
「下がれ、お前ら。今すぐにだ。」
武士「秀吉様・・っ、これは、その、警備の一環で・・・」
「話は聞こえた。お前たちの声が通りの向こうまで響いてたからな。」
武士たちをにらみまわす秀吉の声は、いつになく低い。
「信長様の領土に、出自の是非も身分の差もない。自由な商売が許されている、お前たちもわかっているだろう。」
武士1「ですが!越後に挙兵の気配があるこの非常時ですので・・・・っ」
秀吉「黙れ。その程度で、信長様の考え深い政策が揺らぐはずがないだろう。」
珍しく、本気で怒っているな・・・これは・・・また説教コースか。
「言い訳など言語道断だ、武士の恥としれ。」
武士1「っ・・・失礼、しました。」
一括された武士が、恥じ入ったように顔を染め土下座する。
ほかの武士たちが慌ててそれに倣うのを確認し、秀吉は店主の前で膝をついた。
「ケガはないか?どうか無作法を許してほしい。」
秀吉が、店主に向かって、深く頭を下げる。
それを武士たちは目を丸くして、秀吉を見る。
店主「あ、頭を上げてください!私はこちらのお嬢さんのお蔭で無事ですので。」
「そうか。これに懲りずに、安土にやってきてくれるとありがたい。」
店主「もちろんです。助けていただき、ありがとうございました。お嬢さんも。」
「大事ない。それに、私は庇っただけだ。」
そう笑みを浮かべれば、店主は何度も頭を下げながら、ほっとした顔でその場を立ち去った。
そして、身を起こした秀吉の表情は、何かを耐えているかのようにゆがんでいた。
ん?・・・何だ?・・・
秀吉の表情になつは違和感を覚える。
武士1「秀吉様、どうかお許しください・・!」
武士2「我々の考えが浅はかでした。平に、ご容赦を・・・!」
「・・・わかった、もういい。」
憂いを打ち消し、秀吉は笑って見せた。
「こんな状況だ、お前たちが気を張り詰めていても無理はない。ただし、二度と同じ過ちは繰り返すな。」
武士たち「っ・・・は!」
「ん、わかってくれてありがとな。」
打って変わって武士たちの肩を気軽にたたく姿を見ていたなつは・・・
八方美人もいいところだな。
まあ、人たらしだからこそ。だな。実力と信頼がなければこの対応は裏目になる。
感極まった様子で武士たちが去った後・・・・
「で、なつ?」