第8章 “声”
2人が御殿に付けば、女中頭が出迎え、夕餉の準備をとさっさと話しをつけられてしまった。
想像通り過ぎて、笑うな。まあ、もっとも、今宵は蜜姫の奴が信長の処へ行くだろうからどちらにしろやはり無理だったな。
御殿に踏み入り、秀吉の部屋に着いたところで、早々に問い詰められる。
「で?どうやって証明するんだ?」
「フフ、ウリ隠れてないで、おいで。」
秀吉の問いに、なつが声を出せば、どこから現れたのか分からない、ウリがなつの腕の中に納まった。
「キキ」
「なっ・・・ウリお前何でここにいるんだ?いや、それ以前に名前・・・」
「子猿とは言え、手先は人のように器用だからな。それに・・・クス・・・さて、秀吉。何が聞きたい?」
「は?」
「この子と過ごした時間の出来事でも、この子が見た、貴方の恥ずかしい部分なんかも聞けるかもな。」
なつはウリの頭を撫でれば、ウリは気持ちよさそうに目を閉じる。
「・・・急にそんなことを聞かれてもな。」
「なら、ウリ。」
なつの呼びかけにウリが顔を上げ、なつと視線を合わせる。
「フフ、お前が今一番されて嫌なことはなんだ?」
なつの問いに、ウリが少し興奮したように、鳴き声を上げ、腕の中でもがくように動く。
「・・・あー。それは・・・」
「ウリは、なんて言ってるんだ?」
「秀吉が最近構ってくれないことが嫌らしいが、それ以上に、三成がウリの名前を間違えたり、無暗に掴もうとすることが嫌だって言ってる。」
なつの言葉に、確かにここ最近忙しく、三成に見てもらうことも多かったと秀吉は思う。
それに、三成はウリの名前をまともに呼んだことがないのもその通りだ。
だが、それを知っているのは、自分と三成だけで、しかもそのことを三成が誰かに話すとは到底思えない。
秀吉がそう思い至った所で、なつを見返せば、にんまりと笑いかけられた。
「信用する気になったか?」